甲状腺腫(こうじょうせんしゅ:Thyroid Hyperplasia )
2015年3月23日 / ☆小鳥の病気
甲状腺は、基礎代謝を維持する甲状腺ホルモンを分泌する臓器で、首~胸の入り口部分にあります。甲状腺腫は、セキセイインコ、カナリア、ハトなどの飼鳥、野鳥を含めて多くの鳥種において確認されていますが、特にセキセイインコや文鳥の診療においては日常的にみられる病気です。文鳥では症状が重く、発見が遅れると致命的です。
原因
発生原因に関してはまだ不明な部分もありますが、多くの場合、食事中の栄養素のヨードが慢性的に不足し、甲状腺組織が増生し、腫大化すると考えられています。ヨードは甲状腺ホルモンを作るための材料で、その産生を補うために甲状腺が腫大すると思われます。また、ヨード不足下では、甲状腺腫誘発物質がホルモンの正常な生産を妨げることも原因のひとつとして考えられています。甲状腺腫誘発物質は、大豆、なたね種子、ケール、キャベツ、ブロッコリー、カブ、小松菜、チンゲン菜、トウミョウにおいて確認されています。その他、塩素、有機リンやビフェノールのような化学物質の関与も指摘されています。
症状
食事中のヨードが不足すると甲状腺が大きくなり、ホルモンを作ろうと頑張ります。それでも作るホルモンが少なくなると、脂質代謝低下から鳥は肥満になります。さらに進行すると、大きくなった甲状腺が気管を押しつぶすため、呼吸困難で口をパクパクする開口呼吸が見られるようになります。また、「ヒーヒー」、「ピーピー」、「プチプチ」というような呼吸音が聞かれる場合もあります。さらに喉(のど)が切れて出血する場合があります。末期には、心不全から酸欠となり死に至る場合もあります。
写真:呼吸器症状を示したセキセイインコ
甲状腺(〇内)が大きくなっている。
診断
特徴的な声の変化や呼吸症状で甲状腺腫を疑いますが、呼吸器系の疾患と誤診されることがあるので、X線検査にて確認する必要があります。
治療
呼吸困難や心不全をおこしている場合には緊急に入院して酸素吸入が必要です。
一般には甲状腺ホルモン製剤や、ヨード剤を飲み水に混ぜて投与すると改善がみられます。肥満が著しい場合は、食事療法もあわせて行います。
中~高齢の鳥で、投薬治療後も症状が改善しない場合は、甲状腺癌の可能性が高く、この場合は治療困難となるかもしれません。
写真:上記症例の治療後
甲状腺が小さくなっている
予防
ヨードが豊富な食品を日常的に与えることが第一の予防ですが、ヨードはボレー粉に多少含まれているだけで、実際食品から十分な量を摂るのは困難です。日常的に、ヨードを含む栄蓑剤等を飲み水に混ぜることが推奨されます。
また上記のような甲状腺腫誘発物質を含む食品を与えないことも大切です。甲状腺が弱い鳥に与える青菜はサラダ菜、春菊、パセリ、大葉などが推奨されますが、鳥類用ビタミン剤を使用することをお勧めします。また、湯冷ましや浄水器を通して塩素を減らした水道水を与えた方が良いと考えられます。
©みやぎ小鳥のクリニック
*本解説は、下記の参考文献および当院での実績を基に構成・編集したもので す。出典表記のない図、写真はすべて当院オリジナルです。
【参考文献】
・小嶋篤史著「コンパニオンバードの病気百科」(誠文堂新光社)
・海老沢和荘著「実践的な鳥の臨床」NJK2002-2007(ピージェイシー)
・Harrison-Lightfoot著「Clinical Avian Medicine VolumeⅠ-Ⅱ」