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鳥類の発情を考える

2015年9月10日 / ☆小鳥の病気

 「発情」は、地球上のすべての動物にみられる生理的変化で、発情期は異性に恋をする季節です。すなわち、発情期の動物は恋をして、気に入った相手と交尾をして、出産して、育児をするという、大きな仕事しかし最も幸せな期間を過ごします。いわば、発情は「生」そのものであるともいえます。それは鳥類も同じです。

 鳥は犬や猫、ウサギなど他の哺乳動物のペットとは違って卵を産む動物です。鳥には鳥類独自の発情形態があり、それを理解することは、生活を共にする上でとても重要なことです。ペットの発情は、時として一緒に生活する人間にとっては好ましくない状況を生み出す場合があります。鳴き声や、出血、マーキング、気性の変化、望まない妊娠や出産(産卵)などです。飼い主がペットの発情を理解しない場合には、これらはすべてやっかいなものとして悪者扱いされる場合があり、不必要な避妊手術や、声帯除去手術、隔離、ペットを叱る、ペットを手放したり捨てたりするような責任逃れの行為によって、動物が虐待を受けているのです。先に述べたように、発情は恋の季節です。人間なら、結婚前に恋人と過ごす期間、あるいは新婚の期間、最も幸せな時期であることを忘れてはいけません。

 

野鳥の発情

 どのような種類の小鳥でも、元は野生の鳥ですから、やはり発情は周期的に訪れます。一般的に鳥の発情期は、他の動物と同じように、早春から夏にかけてが多いようです。

 動物は発情の季節になると発情するような体のしくみになっています。では、なぜ、動物は発情期を知ることができるのでしょうか。ある地域で、6月の第2週に発情をおこす野生動物は、毎年その時期になると発情期を迎えます。それは1週間通じて、気温や気圧、温度、日照時間の変化を感じ取ってその時期を特定しているのです。いうなれば、小鳥たちは、カレンダーを見なくても、今日が何月何日かわかっているのです。

 発情期を迎えた鳥達は、異性に自分をアピールするために、できるだけ美しい声で一生懸命さえずります。「遠くのあの娘にこの声が届きますように・・・」と。熱心なオスは、お気に入りの女の子に気に入られようとせっせせっせと餌をプレゼントして、気を引こうと必死です。メスも、意中の彼の前では、姿勢を低くして、背中をそらせるセクシーポーズでアピールします。そうして、相思相愛になったときに結ばれるのです。

 

家庭の鳥の発情

 カゴの中で飼われている小鳥もやはり、周期的に発情期を迎えます。屋内の飼育環境では、年に数回発情期を迎えるのが一般的です。発情を迎えた鳥はやはり、一生懸命さえずるようになります。発情を迎えても、本来の恋をする相手がいないので、人間(飼い主)や物に対して発情する場合があります。(インコに多い)その場合、人の爪をつついたり、頭に乗っておしりをこすりつけたり、止まり木や鏡に向かって餌を吐き出すといった行動をとります。

 メスの場合は、産卵に備えて、たんぱく質をたくさん摂るために食事量が増えます。また、青菜やカルシウムも普段よりもたくさん欲しがるようになります。鼻の周囲の蝋膜が茶色に変色し、糞が大きくなったら発情のサインです。

産卵期のメスは、1日おきに4~5個の卵を産むのが普通です。メスだけで飼っている場合でも、同じように産卵しますが、この卵は無精卵ですので、一定期間置いたのちに取り出すようにします。産卵してすぐに取り出すと、またすぐに産もうとして過産卵の原因になるからです。

 

発情に関するトラブル

 本来、発情は定期的に訪れるのですが、室内の飼育環境では、慢性的に発情を繰り返す持続発情をおこすケースが多くなっています。エアコンの普及によって、夏は涼しく冬は暖かい室内は季節による温度変化が少なく、夜には電気をつけるために、朝夜の区別ができないために、体が発情期を認識できずに、性ホルモンのかく乱がおきてしまいます。その結果、慢性的に発情を起こして、さまざまな病気の原因になってしまいます。

 このようなことから、飼われている鳥には婦人科系の病気が多発します。過剰産卵、卵塞症(卵づまり)、卵巣腫瘍、卵管腫大、ヘルニアやこれらに伴う排便障害などです。また発情による過食が原因で、肥満や脂肪肝症候群も多く発生します。

 オスの場合は、メスほど影響は大きくありませんが、過剰な吐き戻しによってそのう炎をおこしたり、精巣腫瘍が多く発生します。

 

持続発情の予防

 多くの小鳥が、飼い主がわからないうちに持続発情をおこしています。持続発情をおこさないためには、普段の環境をより自然に近づけるように心がけることが大切です。それは、冬は寒くて夏は暑い、昼は明るく暖かく、夜は暗くて寒いということです。冬は寒いからと暖かくしすぎたり、夜にカゴから出して遊ばせることは、持続発情の主な原因です。

 また、発情の対象(相手)となるものを環境に置かない事が大切です。これは、個体によって違うのですが、多くは、カゴの中の鏡やおもちゃ、ブランコや鈴などです。これらをしきりにつついたり、吐き戻しをしている場合は、カゴから取り除くべきです。

 カゴから室内に出しているときには、人の袖や懐、本棚の隙間や、カーテンのヒダなど、巣を連想させるような狭くて暗い所には入り込まないよう注意するべきです。

 また、カゴの下に敷いている紙を噛みちぎる場合には、届かないように注意します。噛みちぎった紙を、巣を作るための材料とみなして、発情をおこす原因となるからです。

持続発情は、かわいがられている鳥ほどおこしやすいものです。過剰な愛情は逆に鳥を弱らせてしまいます。持続発情を予防するには、静かな環境においてそっとしておくことです。鳥本来の姿を取り戻してあげることが大切です。自分のペットを家族の一員としてかわいがることは大切ですが、少しぐらい寒くても、強くたくましく育つように大きな心で見守るくらいの気持ちの余裕をもって接することが大切だと思うのです。

                       ©みやぎ小鳥のクリニック

 

 

*本解説は、下記の参考文献および当院での実績を基に構成・編集したもので す。出典表記のない図、写真はすべて当院オリジナルです。

【参考文献】

・小嶋篤史著「コンパニオンバードの病気百科」(誠文堂新光社)

・海老沢和荘著「実践的な鳥の臨床」NJK2002-2007(ピージェイシー)

・Harrison-Lightfoot著「Clinical Avian Medicine VolumeⅠ-Ⅱ」