診療について

小鳥の診療について

 小鳥も病気になった時には、犬猫と同じように、各種検査に基づいた治療が行われます。基本的な治療方法は他の動物と同様ですが、動物学的な特徴や、体の小ささゆえの難しさがあります。そのなかで、常に最善の治療法を検討する必要があります。当院では年間におよそ3,000件の小鳥の診療実績があります。

 治療は主に内科的なもの(投薬中心)と外科的なもの(手術等)に分けられます。小鳥の病気の治療では、食事管理や内服薬、注射を含めた内科的な治療が大半を占めますが、各種腫瘍やメスの繁殖障害(婦人科系)に関連する病気では、手術による外科的治療が選択される場合があります。これらの治療はすべて、X線検査(レントゲン)、エコー検査、血液検査などの結果を参照して、常に慎重に決定されなければなりません。

検査

 どのような病気でも、検査なしに治療が行われることはありません。現在の身体の状況を把握し、最適な治療のために、各種検査は欠かすことができません。ただし、いつでも、必要かつ最低限でなくてはいけません。
 小鳥の診療で行われる検査には、視診、聴診、触診、皮膚検査、そのう検査、糞便検査、尿検査、X線検査、エコー検査、各種感染症検査があります。

検 査 名 検 査 内 容
視診  汚れや脱羽、皮膚の状態など外皮系の異常や、蝋膜の色、呼吸状態、姿勢などから、大まかな体の異常を推測します。
聴診 主に心拍と呼吸音を聞くことで、循環・呼吸器の異常の有無を確認します。
触診 そのうや腹部を触って、採食状態や異物の有無、腹腔内臓器のはれを確認します。
皮膚検査 真菌やダニの検出が可能です。
そのう検査 そのう液を採取して顕微鏡で調べます。真菌や細菌、寄生虫の感染などが確認できます。
糞便検査  簡単な検査ですが、たいへん重要です。排泄物は、その時の体の状態を的確に反映しています。大きさ、色、臭い、消化性、出血、寄生虫や真菌の感染を調べることができます。
尿検査  鳥類の尿検査は、信頼性があまり高くありませんが、量、比重、糖、蛋白を確認することで、診断の材料とすることができます。
血液検査  他の検査で、診断が不確定の場合は、微量の血液を採取して調べることで、身体の状況をくわしく調べることができます。内科機能を調べるには、他のどの検査よりも精度が高いですが、採血量が限られているために、毎回行われるものではありません。体の小さい小鳥から採血することを危惧される飼い主さんもおられますが、重度の呼吸困難がなければ、犬猫同様安全に行うことができます。
X線検査
(レントゲン)
 体内臓器の大きさや形、位置を確認するのに大変重要な検査です。血液検査と組み合わせて行えば、多くの病気の診断が可能になります。呼吸困難な症例を除けば、どのような個体にも、体への負担がほとんどなく行えるので、大変有用な検査です。
エコー検査  超音波を利用して、体内(主に腹腔)を観察することができます。人では妊娠診断でよく使用されています。小鳥では一定以上の体格が必要ですが、X線検査では確認できない臓器の内部も観察することができます。また、X線のような被爆の恐れもないために、小鳥にも、検査を行う人間にもやさしい検査といえます。
感染症検査  体の異常が、感染症(伝染病)が原因である可能性がある場合に行われます。特にひな~幼鳥ではよく行われます。鼻汁や糞、血液を検査センターに送って調べることができます。
 小鳥によく見られる感染症にはクラミジア(オウム病)、PBFD、アスペルギウス、マイコプラズマなどがあります。

 

治療

 以上の検査で、病気が確定診断されたら、いよいよ治療が開始されます。まず、栄養状態に問題があれば、食事内容の改善を行います。治療は入院か通院か、手術か、投薬か、投薬なら注射か内服か、そしてその種類は?などが吟味されます。

治 療 名 治 療 内 容
注射  確実に効果を得ることができるため、即効性を期待したい場面や、鳥の性質上内服が困難な場合に使用します。1日に数本の注射なら問題なく行うことができますが、体への負担を考慮すると連日の複数の注射は、避けることが望ましいでしょう。
内服薬  餌を食べていて、著しい衰弱がない場合は、通常は自宅での投薬が主な治療となります。内服薬は、直接口から飲ませるか、飲み水に混ぜて与えることができますが、どちらの方法も一長一短があるので、薬の性質や小鳥の性格を考慮してどちらが適しているかを判断します。
 口から直接与える方法は、投薬に熟練した人間が行えば確実に投薬できる利点がありますが、不慣れな人や鳥が嫌がる場合にはストレスをかけることになり、また誤嚥の危険があるため、一般的に小型鳥では推奨できません。
 飲み水に薬を混ぜて与える方法は、鳥に自由に水を飲ませることでだれでも確実にかつ安全に投薬ができます。 鳥が1日に飲む水の量から投薬量を計算するので、決められた水の量に内服薬をしっかり溶かして混ぜて与えます。
 また、飲水を促すために、投薬中は青菜を与えないか少量に制限します。
入院  病状が重い場合や、短時間で悪化する恐れがある場合には入院による治療が検討されます。入院した小鳥は30℃前後の保育器で、1日3~5回チューブフィーディング(強制給餌)による栄養管理が行われます。
 実際は、小鳥が病気になって亡くなってしまう場合の多くは、「病死」ではなく「衰弱死」です。逆に、衰弱しなければ死なない=救命率が上がりますので、保温と内服薬混合の強制給餌で多くの病気の小鳥たちを救うことが可能です。
 入院日数は病状によりますが、3日~2週間、平均8日間です。

【保育器の中の病鳥】

【強制給餌を受けるセキセイインコ】

 

手術

 小鳥の体に異常があり、検査の結果、手術が必要と診断される場合もあります。
手術による治療が選択されるケースには次の場合があります。

・慢性の卵管疾患で、内科療法で改善がみられない症例
・体表部の腫瘍
・内科療法に反応しない卵塞症(卵づまり)
・腹壁ヘルニア

 やはり、症例数としては、卵管摘出手術が圧倒的に多いと思われます。
 
 手術が必要と診断されたら、次に、手術が可能かどうかを、リスクを含めて慎重に検討されます。飼い主と獣医師によって、十分な時間をかけて最終結論を出さなければなりません。

 ひと口に手術といっても、難易度、危険度はさまざまですので、症例ごとに、年齢、体力、治癒の見込み、危険度などを考慮して決定します。手術を行うことが決定したら、最終チェックとしての術前検査を行って、手術に備えます。

手術の手順 治 療 内 容
麻酔  手術を安全に行うには確実な麻酔が不可欠です。小鳥の手術のリスクのほとんどは麻
酔といっても過言ではありません。通常は、ガス麻酔を酸素に混合して吸入することで全
身麻酔をかけます。
 小鳥に使用する麻酔薬は、安全性も高く、毒性も低いのですが、難しいのは深度の調節
です。深度というのは、麻酔による眠りの深さですが、深すぎると効きすぎて危険ですし、
浅すぎても痛みを感じて動いてしまうので手術が困難です。当院では最も安全性の高い麻酔薬の1つのセボフルランを使用しています。
 麻酔の深度はダイヤル式で簡単に調節できるので、手術中には、呼吸などの様子をよく
観察しながら必要に応じて調節する必要があります。
手術  手術は心電図、呼吸状態を監視しながら慎重に進めます。他の動物で使えるモニター機
器も小鳥には使えないものも多いので、慎重な観察と経験がものをいいます。
 手術中に十分な注意が必要なのは、出血です。出血さえコントロールできれば、手術は
成功したも同じです。いかに出血をおこさないか、いかに止血するかで手術の成否が分
かれてしまいます。体重35gのセキセイインコでは、一滴の出血でも無視することはで
きません。
術後  小鳥は一般的に術後回復が早く、短時間で止まり木に止まることが可能となりますが、し
ばらくの間は、保温、酸素吸入を行って、手術部からの出血に気をつけます。